2014年4月21日月曜日

キルスイッチがやってくる(か?)

キルスイッチとは

俗に言うキル・スイッチとは、スマートフォンや携帯電話を紛失したり盗難に会った場合、それら端末の本人以外による使用を制限する仕組みである。

制限については数段階のレベルが考えられる。
  1. 端末をロックし、例えば正しいパスワードを入力しないと電源のオンオフ位しか操作ができない
  2. 個人情報を気付いた時点で消去する。これにより万一正しいパスワードが入力されても重要な情報を抜き取られる恐れが無くなる。
  3. 端末自身をリセット不可にする。これにより盗んだ端末を転売しても使用できなくなるため、犯罪者が端末を盗むモチベーションが下がり盗難の確立が減る。

アメリカの動向

 つい先日、アメリカ市場向けに、メジャーな端末メーカーと通信キャリアがキルスイッチを2015年7月以降に市場で販売される端末から順次サポートする事が表明された。エンドユーザーには無料でこれらの機能が提供される。
http://www.ctia.org/policy-initiatives/voluntary-guidelines/smartphone-anti-theft-voluntary-commitment

端末メーカーは上記1番から3番の機能をサポートをし、加えて以下の2点をサポートする。
  • 持ち主が端末を取り戻した場合には、個人データを回復する手段を提供する
  • FCCの規則に乗っ取り、キルスイッチ作動中でも緊急コールは可能とする

通信キャリアは、これらの機能モジュールをプリロード(端末にあらかじめ機能を組み込む)もしくはダウンロードによりユーザーに提供することになる。

すでに Apple は上記機能1番から3番は Find My iPhone と iCloud のサービスを組み合わせる事により実現している。これらは iOS デバイスに機能が組み込まれているため、通信キャリア側での対処無しに実現できる。加えて個人テータの回復と緊急コールに関してもすでに機能を提供しており、来年を待たずに対応を完了していると言って良い。

Google に関しては、Android デバイス向けの Android Device Manager サービスにより上記機能1番と2番をすでにサポートしている。3番については端末メーカー側での実装も必要と思われるが、時間的には十分に実装可能と思われる。個人データの回復は Google の得意とするところなのですでに十分な機能が提供されており、緊急コールも3番の実装と共にメーカーに対処を要求するだろう。

個別の端末メーカーでは、すでにSamsung が上記機能3番を実装を行っているようだ

このような状況では、キル・スイッチをあまねく消費者に提供する(無料で!)という動きは十分合理的かつ現実的で、逆に言えばこのような準備が整ったからこそ今のタイミングでの発表となったのだろう。

キルスイッチが必要とされる背景とその効果

 Consumer Report の調査によれば、2012年には160万人がスマートフォンが盗難にあっているという。2012年時点での全米でのスマートフォンユーザーが1億1400万人だとすると、約1.4パーセントのユーザーが盗難を経験していることになる。

盗難にあった端末のデータにアクセスが可能になっていると、持ち主の個人データが盗まれるだけではなく電話帳に登録されている他人の電話番号等まで内容を吸い上げられてしまうので、被害は持ち主だけに留まらない。

しかしスマホ泥棒の目的はそれよりも転売にあるのではないだろうか。盗んだ端末からデータを吸い上げられればラッキーだが、そうでなくて端末リセットして工場出荷時の状態に戻した上で転売する事で結構な利益を上げられるはずだ。
特に端末メーカーが多市場をカバーできる端末モデルを推進している現在では、アメリカで盗んだ端末を新品(もしくは新古品)として他の市場で販売することは難しくないだろう。

キルスイッチの機能の1番と2番が個人データの保護を目的としているのに対し、機能の3番は転売を不可能にすることにより盗難そのものを抑止するのが目的であり、画期的な機能だと思う。

またこれらの機能がユーザーには無料で提供されるという事が重要だ。
私も実は iPhone4 を紛失した事がある。持っていない事に気付いてすぐに心当たりを探したがすでに無くなっていたので、盗難にあった可能性も高い。その時は Find My iPhone は有料サービスだったので、設定をしていなかった。後悔先に立たず。
しかし現在ではこのサービスは無料、Google のサービスも無料なので所持している端末はすべて設定を完了している。
また通信キャリアが積極的にこの機能をユーザーにアナウンスしていくことで、これまで何となく難しそうに思えて敬遠していたユーザーにもアピールできるだろう。

端末メーカーと通信キャリアにとってはどのような影響があるだろうか。
キルスイッチに付いては法制化の動きがあるので、それを避ける意味があるだろう。また現在主な端末メーカーは独自のセキュリティ機能の組み込みを推進しているので、キルスイッチの機能提供をきっかけとしてより付加価値の高いサービスを売り込みたい思惑もあるかもしれない。

日本では

日本でも 2.6パーセントの人が携帯電話(スマートフォン含む)の盗難にあっているという話もあるので、もしもキルスイッチの様な機能は必要とされるのではないだろうか。

以前の日本市場は国外の市場とは異なり、日本のメーカーが日本でしか実質使用できないモデルを大量に供給していた。従って盗難端末の国外への転売は考えにくかったかもしれない。
しかし現在では端末のラインナップもよりグローバルな物に近くなり、状況としてはアメリカのケースに近くなってきていると考えられる。

現状でも、機能の1番と2番については通信キャリアから有料のサービスとして提供はされている。ただ Apple、Google というグローバルプレイヤーが無料で同等のサービスを提供している中、有料サービスを継続するのは難しいかもしれない。
発売される端末モデルもますますグローバル機ベースに切り替わってきており、アメリカでの提供に続く形で日本においてもキルスイッチ機能が一斉に提供され始める可能性はあるだろう。